CES20071、アイガーCEO講演「オープンなディズニー」

 国際家電見本市「コンシューマー・エレクトロニクス・ショー2007」(CES2007)初日となる2007年1月8日(米国時間)夕方の基調講演は、『カーズ』や『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズなどのヒット作に恵まれ、人気を取り戻しているディズニーを代表し、ロバート・アイガー最高経営責任者(CEO)が登場した。同グループは、4大放送局のひとつABC放送、スポーツ専門チャンネル最大手のESPNに加え、昨年、CGアニメのトップであるピクサーを買収して、メディア・コングロマリットの中でも成長著しい。講演では、多彩な映像を見せながら、同グループのコンシューマー向けコンテンツ戦略について解説した。

再建進めるアイガーCEOの登場

 昔ディズニーはアニメーション制作で、何段にも重ねた棚に絵をまとめて差し替えながら撮影するマルチ・プレイン・カメラ技術を開発して生産性を向上させた。このように常に、コンテンツ制作において最新技術を取り入れることに力を入れてきた───そんな出だしでロバート・アイガーCEOは講演を始めた。しかし、この言葉をそのまま受け止める業界人は少ないだろう。

 ほんの数年前のことだが、同社は主力のアニメーション制作で、新興のCGアニメ会社、ピクサーに負け続け、冬の時代を過ごしていた。これは、1994年に公開した『ライオン・キング』が8億ドル(全世界)という記録的な興行収入を上げ、それを契機にCG制作に背を向け、伝統的なアニメーションビジネスに力を入れていったためだ。

 もし、ライオン・キングが高い収益を上げなければ、あるいはトイ・ストーリーが先に成功を収めていたら…。ディズニーは、最新技術に背を向け、伝統的なアニメーションの泥沼には入らなかったかもしれない。こうして、1995年の『ポカホンタス』ではピクサーの『トイ・ストーリー』に売り上げで約5000万ドル負け、1998年の『ムーラン』でも『バクズ・ライフ』に約4200万ドルほど負けた。その後、差はますます広がり、2001年の『アトランティス』は 『モンスターズ・インク』の3割程度しか売り上げられず、2004年の『ホーム・オン・ザ・レンジ』は『Mr.インクレディブル』に2億ドル以上の差をつけられて完敗している。こうしてアニメーション映画の老舗ディズニーは自信を失い、投資家や証券アナリストから厳しい批判を受けていた。

 そうした中、2005年10月に就任したロバート・アイガーCEOは、難交渉の末にピクサーを買収し、以後、積極的にディズニーの再建を進めている。

新しいディズニーを印象づける

 今回の講演では冒頭、最近のヒット作を紹介しながら、ディズニー・グループの多彩な顔を紹介した。ついで、アップルのiTuneへ積極的にコンテンツ提供を行った例を示しながら、今後もコンテンツを新しい媒体やデバイスに提供していく姿勢を強調した。また、映像コンテンツの制作費用が高騰を続けるなか、違法コピー・海賊版による被害が拡大していることに触れ、コンテンツの提供機会を増やしながら「(消費者が納得できる十分安い)適正価格で広く提供することが重要だ」と述べ、著作権法を振りかざして権利保護にばかり走ることを暗に批判した。これも従来のディズニーとは大きく違う発言で、アイガー氏が進めるディズニー改革の一端を示すものだろう。

 続いて、話は子会社スポーツ専門チャンネルESPNに移った。ESPNは、ディズニー・グループのなかでも、もっともオンライン戦略で成功している。同社のホームページは、毎週月曜日にESPNで放映されるフットボール中継「マンデーナイト・フットボール」前後に大量のユーザーがアクセスすることで有名で、オンライン広告の価格も高い。

 アイガー氏は、こうした状況に加えて、最近CATV事業者などに営業開拓を進めているESPN360も紹介した。ESPN360は、ブロードバンド向けのスポーツチャンネルで、ESPNが抱える有名な解説者や最新のスコアなどをそのままオンライン展開している。ふんだんに映像を提供し、従来のCATVから離れ、IPブロードバンド市場を開拓する使命を担っている。また、PDAや携帯端末などのマルチプラットフォーム戦略においても重要な位置を占めている。

ディズニー・ホームページを一新

 後半はディズニー本体に話をもどし、大幅なリニューアルを終えたディズニー・ドット・コムの紹介をおこなった。今回のリニューアルでは、トップページ中央に動画をおいて映像を中心とする躍動感を重視している。また、パーソナライズ機能が充実し、性別や年齢といった簡単な選択で、まったくイメージの違うホームページに生まれ変わる。これは男の子と女の子、子供とティーンでは、まったく違うディズニー作品に関心があるためで、従来のページ別の手法では、多様な需要を十分に満たしきれないと説明した。

 そのほかアイガー氏は、ゲームとチャットなどを同時に楽しむマルチタスク機能を積極的に取り入れるなど、様々な試みを導入している点を強調する一方、最後に無料のネットワークゲーム「パイレッツオンライン・ドット・コム」を発表し、新規ユーザーの獲得の姿勢も示した。

 米国ではヤフーやグーグルがコンテンツ配信に力を入れているほか、同じ総合メディア企業のニューズ・コーポレーションがマイスペース・ドット・コムでオンライン広告市場の開拓を進めている。ディズニーは、こうしたオンライン戦略では出遅れていた。今回のリニューアルは、大げさなポータル戦略とは無縁だが、着実にオンラインでの認知度を上げることを狙っている。